2009.12.19

1日構造塾 後編(全2回)  鈴木啓氏(鈴木啓/ASA) 講演レポート

「建築家と構造家、それぞれの思想」と題して行った、1日構造塾での講演内容を前編、後編に分けてお届けします。
後編は鈴木啓氏による「近作のお話」です。

鈴木啓(鈴木啓/ASA)

 

鈴木ー構造設計をしています鈴木です。 佐々木睦朗事務所を出て、独立する前に一年半の間、池田昌弘事務所にいました。独立して7年ちょっと、経っています。
今日は、ここ最近完成した住宅を中心として説明をしたいと思っています。


BELLY'S COURT AY(坂倉建築研究所)
http://www.sakakura.co.jp/portfolio/type/sports/details/bellys/bellys.htm

鈴木ーこれは、木造の弓道場になります。坂倉建築研究所さんから話を頂いて、初期に決めたコンセプトとして、国産材の木だけでやりきりましょうという事にしました。集成材も接着剤も使わない。合板は使うのですが、これも国産材でやってみましょうという事でやりました。

構造形式としては、とても単純で、壁量をバランスよく配置した建物ですが、スパンが大きかったりする箇所があるので、部分的にスティールの張弦梁としたり、他にもをいくつかの工夫を行っています。




鈴木ー国産材の梁でスパンが9m位ありつつ、庇として2.5m位のキャンチレバーを作っています。集成材を使えばとても楽だったんだけど、当初立てたコンセプトの中で、どうしても梁せいの大きいものを手にするのが難しかったので、ちょっと操作したのが重ね梁です。

一番大きい重ね梁が120x180の普通に使われる梁を、3段に組み合わせてこれをお互いダボで取り付けながら540mm位の梁を作っています。集成材だったらこれ位の梁をいっぺんに作って、とても簡単にできちゃうんですけど、やっぱり重ね梁と言うと、くっつけた所で滑っちゃうんで、ダボを入れたりボルトで縫ったりしています。プレカット工場で簡単な実験をやらせてもらって、安全性を検証しています。

ファサードというか壁は、コンクリートなんですけど、構造体とは関係なく間仕切りとしてあります。 コンクリート壁の間仕切りなのですけど、ここでスギのホンザネ型枠を使ったりして、坂倉さんらしい印象の建物となっています。




鈴木ー今だから言えますが、実際は途中で何度も接着剤を使いたくなってしまいたくなる気持ちでした。重しが3tくらいだったかな。重ね梁に載せて、どの位たわむかを実験しました。計算よりもちょっと大きい変形が出て、当初ヒノキあらわしという計画をしていたのですが、クリープたわみとかが怖かったので、最終的には合板を釘打ちして、クリープ対策をしました。立派なヒノキだったのでもったいないなぁ、と言ってました。

重ね梁については、去年、「木材会館」を日建設計さんがやっていましたが、スプリットリングという「輪の家」で使った金物を接合部に使いながら、ダボとボルトを併用し、何十mものスパンを飛ばしているのを見て、さすが日建設計さんだなぁと思いながら雑誌を見ていました。そのときの部材断面も、私は普通のI型梁なんですけど、日建設計さんは台形のボックス状の重ね梁を作って、何十mもスパンを飛ばすようなことをやっていましたね。そういうことで、重ね梁については、完全に負けちゃいましたね 。



HOUSE OF EAVES(設計:吉村靖孝建築設計事務所)
http://www.ysmr.com/project/hkn/01.htm

鈴木ーこれは吉村靖孝さんの箱根につくった木造の別荘です。大きな特徴としては、軒先が一番でているところで3.6m位あります。柱を入れたくないということで、実際5.4m位の片持梁になっているのですが、この建物で何をやろうかなという時に、以前「輪の家」で、大断面の集成材をやっていたのでそれを応用しました。

梁せいは1.2m位あるのかな。最初、LVLで幅60mmの梁を455ピッチでやろうと思ったのですが、見積もりを取ったら、お金が高くなってしまったので、普通の幅120mmの集成材でピッチを2倍にして、木の量を変えずに、お金も安くなるという事で、そちらを採用しました。

 



聴講者ー実際、梁せいってどれくらいまで製作できるのでしょうか?

鈴木ー集成材はたぶん3m、車で運べる量、接着剤で足し合わせればできるし、長さも何mでも出来ますよ。たぶん20mとか、それ以上でも出来るでしょうね。でも、運搬を考えると10mちょっとまでしか運べないのでしょうね。





鈴木ーこんな感じですが鉄骨を一部、使用しています。H型鋼の梁を。ちょっと木造だけでやりきれなくて、悔しかったところでもあります。

聴講者ー鉄骨造にしなかった理由はなんですか?

鈴木ー鉄骨造にしなかった理由はなんだろうな。ちょっと忘れちゃっいましたが、予算だったかもしれないですね。それと箱根は神奈川県なのですが、とても寒いんですね。雪も東京なんか全然降っていない時に20cm降ったりとか、結露とかもあるから、なんとなく木造の方がそういう場所では良いという感覚が僕の中に有って、木造という方向に進んだのかもしれません。そう言いながらも、一部、鉄骨を使っていますけど。


AKHouse(設計:津野恵美子/津野建築設計室)
http://www.t-troom.com/project/detail.php?id=AKH&page=1

鈴木ーこちらは、RCの住宅です。世田谷の赤堤という場所にあります。建築家は津野恵美子さんで、古谷さんの事務所出身の方です。白で出来ている建物の部分はコンクリートで作られています。コールテン鋼をきれいに表面処理した既製の材料がファサードとなっており、この鉄骨の構造体が、両側の白いコンクリートを繋げているようになっています。

コールテン鋼で出来ている部分の室内側は、書斎になっていて本棚の箇所が2層吹き抜けになっています。天井は、フラットバー350mmの梁を架け渡しており、そこに鉄板を貼っていて、T型断面の梁が連続する事でこのようにスパンを飛ばしています。





鈴木ー2階はお施主さんのお母様の部屋になります。2階は1階の鉄骨梁のリブの向きを変えています。短手に梁をかけるようにして、白と白のコンクリートの構造体をつなぎ合わせるような形でつくっています。その際に、リブの方向が意匠の表現となっていますが、構造的なプラスとマイナスの面を両方伝えて、室内の表現から、津野さんが最終的にリブ方向を判断をして決めました。

これは2階のハイサイドの部分で、ハイサイドから光を入れたいという事でリブとの取り合いがこの様になっています。






鈴木ー奥と手前、それぞれお互いの空間は壁式のコンクリートでできていて、それを鉄骨の梁でくっつけてコンクリートの床を打ち、二つの床を剛床でつなげています。パネルを工場で製作し、それを現場で組み合わせて現場溶接しています。斜めに入っているのは、梁が歪まないよう補助的に仮設材として施工中に入れてました。

コンクリート躯体を最初に終わらせて、そこに鉄骨を挟み込んでいる形式となっています。奥に見えているのは、後で2階床のコンクリートを打設する為のさし筋です。梁を短手に架け渡しているので、それを受けるための梁が出てきて、その梁はかなりの荷重を背負うので、そこにサッシ枠と合わせてポスト柱を置いています。奥は吹き抜けになっていて、鉄骨柱に見えますが、二層分6m程のマリオンをフラットバーでつくっています。




鈴木ー津野さんが、竣工してから古谷さんに見てもらった際に、途中で直交するリブが無い方が良いと言われたそうです。直交リブ無しで、一方向のリブだけの方がよかったということでした。私も解ってはいたのですけど、どうしようもなかった感じがあります。スパンで12m、13mをやろうとなった時、リブが必要だったし、リブが無かったら梁せいがもっと大きくなっていたとか、色んな問題があります。それを他の形でどうやったらもっとよく出来たかなというのはずっと頭に残っています。



廊の家(設計:TNA)
http://www.tna-arch.com/english/archi/archi_row01.html

鈴木ー「廊の家」と呼んでいるTNAさんの別荘シリーズの第3段目です。
これも今までと同じ様に、建売の別荘で、どこに敷地があるのかっていう様な場所です。毎回、TNAさんは敢えて苦難の道を挑むかのように、非常に特徴ある敷地を探して、ここに建てましょうという感じです。敷地の特徴を活かすという事ですね。



鈴木ー傾斜した敷地を造成して、建物が建っています。「廊の家」の由来って、廊下、回廊ですね。室内がぐるっと廻っていて、ワンルームのような生活ができます。
これは梁せい1mくらいのH鋼で作っています。山側はコンクリートで出来ていて、鉄骨梁が架け渡されていて、浮いたような形になっています。

さっき言った様に別荘の3つ目なのですが、ちょうど世の中の景気が良くなっていた時で、建物に付加価値をつければ、高く売れるという当時の風潮で、施主が今までよりもお金をかけて建てましょうという事で進みました。ちょっとお金があると浮かすとか変なことも出来るようになってしまいます。今まで寒冷地で、予算的にも木造が良いっていう風にやってきましたが、予算も有ったので鉄骨でも出来ました。

寒冷地の居住性を考えると木造の方が良いのかもしれません。それから、建物を浮かしているので、本当はコンクリートは無い方が良いのでしょうが、居住性能的にはコンクリート無しで軽く作ってしまうと、人間がジャンプしたり歩いたりする時に、キャンチレバーの揺れが敏感になってしまうので、コンクリートを床に打って居住性能は高めました。

聴講者ーコンクリートスラブの厚みはどれ位ですか?

鈴木ーコンクリートデッキスラブで8cmくらいです。




鈴木ー屋根の方はコストバランスからも、木造で単純に作ることにしました。構造体が終わって仕上げ工事となった時に、土が埋め戻されると、完全に浮いているような感じになっています。 室内は梁せい1mのH鋼が廻っていて、H鋼の下フランジにデッキコンクリートをのせて床になっています。

聴講者ー屋根はどうなっているのですか?

鈴木ー屋根は外周にぐるっと木造の梁が柱一本ごとに掛け渡されていて出来ています。



All photo : (c) 鈴木啓/ASA

■ プロフィール
構造家 鈴木啓氏/ASA
佐々木睦朗構造計画研究所、池田昌弘建築研究所を経て、鈴木啓/ASA設立。
現在、(仮称)塩尻市市民交流センターなど多数注目プロジェクトが進行中。

鈴木啓さんに関するウェブサイト


 

 

 

 

 



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