2010.8.28

特別講義02 前編  
坪井宏嗣
氏(坪井宏嗣構造設計事務所) 講演レポート


1.下川歯科医院(設計:設計事務所SUEP.)


photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所


坪井)まずは、下川歯科医院です。福岡から電車で一時間位行った所ですけど、歯医者さんの計画を紹介します。計画は、SUEP.の末光陽子さんと末光弘和さんと夫婦で設計されている方です。末光さんは元々大学の一つ上の先輩で、伊東事務所出身です。たまたま独立した時期が同じ位で声をかけて頂きました。 これまで一緒にやっているプロジェクトは三つ位になります。


photo : (c) 設計事務所SUEP.


坪井)末光さんから持ち込まれたのはこのようなプランで、ここが診療室。真ん中にサービスルームを配置してそこはコンクリートにしたいと。その周囲は軽快にして、耐震要素となる壁を短冊状に雁行させて計画したいと、そういう状態で相談を受けました。構造上は真ん中にコンクリートのコアをつくって、外周部は鉄骨で計画しようという形になったんですけれども、特徴的なのはこういう立面。



photo : (c) 設計事務所SUEP.


坪井)葉っぱの模様がちりばめられていて、仕上げはどうしても鉄板にしたいとの事でした。それをどうやって造ってゆくかというのが主なポイントでした。鉄骨造で鉄板構造となると、外壁部分と柱の部分でヒートブリッジが起こります。そういう話もあり、今回は鉄板構造ではなく他でやれないかということになりました。結構壁面が大きいのですが、3×6板とか4×8板とか鉄板にも規格があるため、ある程度の大きさ以上になると一枚で持って来られず、継ぎ目が出てきます。


photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所


坪井)これが鉄骨の詳細図なんですけれど、柱を50角の角パイプでやることになりました。すごく細いんですけれど、鉄骨造の平屋なのでなるべく屋根部分を軽くすれば可能なんじゃないかと思いました。
50角の角パイプで壁フレームをつくれないかと。先程の葉っぱの壁面がこういう形になるんですが、ここでラーメン構造を3段にしてその細さを補う計画です。そのため、構造上、面を3段に区切る必要があったんですけれど、パネル割りの問題で、薄鉄板の外壁についても3段に区切ると割付がうまくいき、計画上も3段に仕切るというのは合理的なんじゃないか、ということになりました。

面を張ると耐震要素的な感じがするんですが、今回はあくまで仕上げとする事で、ヒートブリッジも防いで軽快な感じで進めましょうという事になりました。


photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所


坪井)ここから若干専門的な話ですが、50角の角パイプでラーメン構造のフレームを作ろうとするとなかなか作りづらいんですね。普通は通しダイヤフラムが出ますが、仕上げ上ダイヤフラムがでるのはうまくない。内ダイヤフラムというのもあるのですが、こんな細い材でそんなことやっていられない。そこで、ダイヤフラムの代わりに50mm角の直方体の鉄塊を仕込んで、角パイプのジョイント部分をつくってしまえばラーメン構造になるんじゃないかと考えました。

ヨコヲノ森)溶接ビードはどうしているんですか?

坪井)それは開先をとってしまって、突合せというか部分溶け込みというか、です。

ヨコヲノ森)UTはしてないんですね?

坪井)板厚が薄すぎるんですね。6mmもないので、UTはできないし、薄いので充分溶け込む。平屋だし大丈夫だろうとも考えています。今の話わかりました?

聴講者)UTというのがわからないです。

坪井)UTというのは超音波探傷試験といい、溶接する時に内部に穴があいているなど欠陥がある場合があるんですね。そのような事が無いようにチェックする試験です。しかし、板厚が6mm以下になると試験ができないんですね。これはUTができないからといって危険という訳でもなく、6mm以下になるとまずそんな欠陥は出ない、という話です。


福岡の鉄骨屋さんなので、現地にたくさん足を運べるわけでなく精度が心配でしたが、真っ直ぐにやってくれました。いっぱいあるので平積みにしてあります。



photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所


坪井) 先程の3本のフレームが構造で、他は葉っぱをいれるための外壁下地となっています。あみだくじみたいになっていますが、3段のフレームだけ構造で後は下地材です。下地材とメインフレームが同じ外形になっているため、結果的にこんな感じになっています。とっても薄い柱壁になっています。

聴講者)葉っぱのスリットがあるじゃないですか?そこの部分も鉄板なんですか?

坪井)ガラスの部分は鉄板だけじゃなくて中まで抜けています。後で写真を見せます。葉っぱには、ガラスが入っていて内壁から外部まで抜けているんですね。この葉っぱの配置もランダムに見えるんですが、3段のフレームを避けるように配置してあります。外の緑が見えますが、内側も黄緑色にぬってあって、ぼわっと葉っぱのようにみえる状態になっています。


聴講者)仕上がって壁厚はどのくらいになっているんですか?

坪井)仕上がっていくつだったかな。100ぐらいだと思います。

聴講者)ヒートブリッジをなくすために薄くして、内側に断熱をやって仕上げをやるっていうことですか?

坪井)そうですね。躯体厚をなるべく薄くしておきたいという事で、限界までやってみたらどういうことになるだろうとで、躯体厚を50mmでやっています。これでもかなり薄いと思います。


photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所


坪井)これは待合室です。歯医者さんみたいじゃないですけれど。歯医者さんって、あまり皆行きたくないじゃないですか。リラックスできる空間を心がけていたみたいです。これは診療室です。このスリット部分のブラインドも緑色になったりして、全体的に葉っぱの調子と合わせてあります。サインも末光さんの方でデザインされていて、ここにも葉っぱのデザインがあります。

こんな雰囲気になったので患者さんの数が4割増えたそうです。普段は行きたくない場所が、こういう所だと行きたくなり、そんなものを建築家も造れるのだなと思いました。今回は僕も、極力柔らかい雰囲気を壊さないようにと構造計画を心掛けました。鉄板構造がやりたいとゴリ押ししてもよかったんですが、やはり鉄板構造はそれなりに重量感があって、中にいて圧迫感もあると思うんですね。そういう事も考えて、薄鉄板で軽快に実現できるもの、というのを極力考えて設計しました。


ヨコヲノ森)フレームは、ポスト柱としても効いているんですか?

坪井)ポストとしても効いていて、フレームとしてもフィーレンディールのラーメンとなっているので、耐震要素ともなっています。


photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所


聴講者)葉っぱの所は、工場で内壁と外壁とガラスが入った状態にして建て込んでいるでいるんですか?

坪井)内壁、外壁は現場で合わせていると思います。ちょっと詳しくはわからないんですけれど、末光さんの実家が愛媛でガラスや板金の加工をしていて、実家で作ってもらい運んでいると思います。普通、こういう鉄板のレーザー加工はすごくお金がかかるので、今回実現できた背景には、実家に協力してもらい原価でやってもらうという末光さんの努力が含まれています。
鉄板が3つに区切れているので、葉っぱはフレームをよけてもらっています。離れてみると結構ランダムに入っているように見えるんじゃないかと思います。

ヨコヲノ森)壁と壁はどう組み合わせているんですか?

坪井)構造的にはピンでつながっています。つまり屋根がかかっているだけ、みたいなものです。




photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所


ヨコヲノ森)
そこでフィーレンディ−ルということではないんですか?

坪井)ここはフィーレンディ−ルではないです。ここはピンです。だから、全体として面内方向の地震力には壁がそれぞれ自分達の負担面積分を支えます。中央部分は、コアになっているんですけれども。

ヨコヲノ森)平面的な混構造みたいなものですか?

坪井)そうなっていますね。


photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所


ヨコヲノ森)鉄板も耐震要素に含まれているんですよね?

坪井)いや、外壁が3.2mmだったかな。含まれていないです。

聴講者)50角のフレームを使うというのは、コスト的には結構大変なことだったりしますか?というのは、先程の50角の3段のフレームと胴縁が一緒ですごくおもしろいなと思いました。極端な話、50角くらいの柱で、住宅がばばばっと作れたらすごい軽快でいいなと思うんですけれど。

坪井)コスト面というよりは、それをやってくれる物好きな鉄骨屋さんがいるかどうかです。普通断られると思うんですよね。実はこのとき大不況で、鉄骨屋さんの受注が6,7割減という状態だったので、ぜひやりますという感じでやってもらえたんですよね。地方の鉄骨屋さんってまだ大らかで、地方だからできたというのもあるかなと思います。都内だとすごい見積もりが出てくると思います。



photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所


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