2.ウチミチニワマチ (設計:増田信吾+大坪克亘)


photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所)


坪井)次はウチミチニワマチというプロジェクトです。増田君と大坪君という20代後半の若手です。彼らは大学を出てすぐ二人で始めていて、画はかけるんだけれど、現場は何も知らないという状態でした。
今回現場をやるのが始めてでしたので、僕は構造設計をやるというより一緒になってここはこうやるんだよとか、こういう所はこの業者に聞くんだよとか、そういったアドバイスをしたプロジェクトでした。

プロジェクトは塀の改修。増田君の実家のブロック塀を壊して新しく塀を作るという計画でした。実家はどこにでもあるような古い木造家屋で、ここにガーッとブロック塀があったのですが、奥にも家があるので風を抜けるようにしたいことと軽快にしたいということで、彼らはエキスパンドメタルを素材として考えていました。エキスパンドメタルというのは、鉄板にスリットを入れて引っ張った紙工作みたいな鉄の材です。それを折り曲げて塀を作るという計画でした。



photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所)


坪井)同じような模型がいっぱい並んでいますが、彼らはものすごくスタディをし、緻密な模型を作ります。そして生活をよく観察しながら造っています。エキスパンドメタルを折り曲げて、折板効果でそこが支柱になるように計画しています。彼らはそこまで考えたんですけれど、それで本当に大丈夫なのか?という事で僕の所にきました。

構造形式に関しては大丈夫じゃないかという話になりましたが、どうやって造るのか?という話になって、折り曲げてある所をどう加工するつもりなのかを聞きました。コーナーとコーナーを溶接でつないでいくのか、噛み合わせて造っていくのかと。
噛み合わせて造っていくと鉄板がダブルになってしまう、これはないなと。でもコーナーとコーナーを繋げると溶接箇所があまりにも多すぎる。





photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所)


坪井)結果、曲げ加工したものを持ってきて、現場で溶接できないかと一緒に考えました。エキスパンドメタルというのは、見てわかる通りすごく細かい。つながっている部分が、1.2×2.3mmとかで、繋がっているのか繋がっていないのかわからないぐらい。それを現場溶接するとか曲げ加工をする、というのはどこでも断られます。ところが彼らは4、5社回って、加工をやってくれる奇特な業者さんを見つけた。そこが全てかなと思います。やってくれる人がよくいるなと思いました。ウヌマさんという金属工芸の方で、普段は野村工芸の下請けをやっているみたいです。


photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所)


坪井)二人は、自分達で提案しておきながら、現場であまりにもふにゃふにゃなので折り曲げて立つまでは信じられなかった、と言っていました。折り曲げるとちゃんと置いておく事ができます。エキスパンドメタルを曲げ加工するのがまた大変で、ベンダーという裁断機のお化けみたいのがあるんですが、それで普通は鉄板を曲げます。エキスパンドメタルも曲げられるんですが、エッジが斜めなので刃がこぼれます。それで断られるんですが、ウヌマさんは刃こぼれしてもいいからやってあげるよと。

曲げたところを溶接します。溶接箇所が何箇所あるかわからないけれど、丹念に全部溶接してくれました。また、ベンダーだと物理的に、折り曲げ回数が2回までなんですね。そのため曲げられる範囲を色々考えています。角じゃなくて真ん中で継いでいます。これは何日もかけて一個一個やってくれています。もう気違い沙汰なんですけど。僕は増田君と大坪君に、『どんな作業を人に強いているんだ!』と説教をしながら進めていました。

ヨコヲノ森)柱脚はどうしているんですか?

坪井)柱脚はアングルをまわして置き基礎をして、ネジ棒を突っ込んでとめています。彼らが偉いのは、現場をやったことないのに金属工事以外はセルフビルドした所です。ホームセンターで基礎のブロックを使えないかと探して来たので、アングルまわしてボルト突っ込んだらいけるんじゃないかとアドバイスしました。

そういう熱意におされながらですね。ウヌマさんにも助けられながらやっています。エキスパンドメタルが空中でぐらぐらするので、溶接するのもやたら大変だったようで予定よりも時間がかかりました。上端にはフラットバーがまわっています。水切りみたいにして、これは構造上というよりも、小口をきれいに見せたいということです。



photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所)


坪井)現場溶接は見た目ではほとんどわかりません。木の枠も彼らが自作しています。植栽は増田君のお母さんが植えています。カーテンみたいのがありますが、これは鉄のリングを編みこんだもので、アメリカかどこかから輸入しています。サメ穫り用の鎖帷子みたいなものがあって、それを自ら輸入してカーテンを造っています。

ただの塀にもかかわらず、大勢の人が観に来ました。僕が彼らを面白いと思うのは、ガスメーター等の既存のものを隠さないで、あるものとして計画している点です。そのためにスクリーンを計画していて、スケッチやスタディを膨大にしています。熱意があると無理そうなことでも実現するんだなと、かえってこちらが勉強になったプロジェクトです。




photo : (c) 坪井宏嗣構造設計事務所)



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